安倍首相が施政方針演説でふれた「江津市の人口動態」は正しいか(図表修正版)
安倍首相が施政方針演説でふれた「江津市の人口動態」は正しいか
◇統計をみて「8つの質問」で検証していく
※デザイン修正版です。まえの投稿は、図表がとても読みにくかったので。
2020年の施政方針演説で、安倍元首相が、下記のように、施政方針演説で語ったことについて、当時それを検証したものを公開します。
当時に書いたまま公開しますが、いかに問題が多い発言であるかを説明しています。
統計をもとに語ったものが、その根拠を問うと、元首相の語ったものとは、まったく真相が異なるという話です。統計をよく見れば、それがわかるのです。
元首相は昨年亡くなりました。3年前の施政方針演説の話ですが、当時、多忙その他の理由で、まとめたものを公開にはいたらなかったものですが、ここにしるしておきたいと思いました。
長文ですが、よろしかったら、お読みくださいませ。
もしかすると、印刷して読んでいただいたほうが、いいかもしれません‥。
(2023.1.22記す)
なお、今後、いまさらのように思われるかもしれませんが、ほぼすべての人が知らない、森友学園小学校の値引き問題の考察を、投稿できたらと思っています。(同上)
ちかく、2022年までの統計をもとに、このレポートで予測した、2~3年後の江津市の人口の「社会増減」が、予測どおりの動向となったかどうかの検証レポートを書く予定です。お楽しみに。 (2023.1.26記す。気づいた誤字等、訂正しました)
以下、本文です。
〇「8つの質問」で、首相演説を検証する
島根県江津市にIターンしてパクチー栽培をしていたHさんについて、安倍首相は施政方針演説(1月20日)でふれて、地域を活性化する政府の施策を紹介しました。そのHさんが、昨年末、市外に転居していたことはニュースになりました。お読みになった方も少なくないでしょう。
https://www.chugokunp.co.jp/news/article/article.phpcomment_id=606203&comment_sub_id=0&category_id=24(中国新聞)
このときの首相演説で、江津市の人口動態についての言及がありました。https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0120shiseihoushin.html(施政方針演説)
その内容を検証していきたいと思います。おもに用いるのは、つぎの統計資料です。
https://pref.shimane-toukei.jp/index.php?view=4334(しまね統計情報データベース「推計人口」)
統計を示しながら、「8つの質問」に答えていけば、検証できます。
それでは、まず、安倍首相の発言はどうだったかを見ましょう。
〇安倍首相の発言の該当部分
上記のURLの演説中「3 地方創生 (地方創生)」から引用します。
〈東京から鉄道で7時間。島根県江津市は「東京から一番遠いまち」とも呼ばれています。20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町です。
しかし、若者の起業を積極的に促した結果、ついに、一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました。〉
〇いつから転入が転出を上回ったのかを調べてみる
まず、このことを調べてみます。
「しまね統計情報データベース」で、人口動態をみると、1994年10月1日までの1年間、1995年10月1日までの1年間に、転入が転出を上回り、それぞれ「5人」「46人」の転入超過だったとするデータがありました。以降は転出が転入を上回りつづけました(後出表1)。
この時点からの人口減少のことをさして言っているのでしょうか。
そこで、最初の質問です。
〇質問1
2019年12月末の江津市の人口は、2万3442人です。
1995年10月1日の人口は何人ぐらい?
1.2万6200人くらい
2.2万6200人をすこし上回る
3.2万6200人をかなり上回る
4.2万6200人をすこし下回る
2万6200人というのは、2万3400人+2800人というのは、おわかりですね。
上のどれが正しいでしょうか? 答えを決めていただけましたか?
〇正解
1995年10月1日の国勢調査人口は、3万0740人。約7300人(7298人)減少しています。
実態としては、正解は「3」です。「人口の4分の1近く(23.74%)に当たる約7300人が減少しました」。
でも、「3」と答えた人は、多くなかったのではないでしょうか。
〇推論の正解
「20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町」とあるので、「1」は、与えられた情報からの推論として、正しいと思います。
「2」も、「20年以上」とは書いてあるが、「20年前」と比べているのかもしれないなどと思ったら、そういうこともありうるでしょう。
与えられた情報から推論すると、むしろ、正解の「3」は考えにくい気がしますが、それが実際でした。
〇質問2
では、「20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町です。」とは、何を意味しているのでしょうか。2800人の減少というのはなにか。推理してみましょう。
1.比較期間が、より短い。2009年の民主党政権の成立からの減少幅を示した
2.江津市は、2004年10月、桜江町を編入したので、旧桜江町域の人口を除いて比較
3.1995年10月1日からの「転出が転入を上回った」人数を集計した
4.それ以外の理由で2800人が減少した
〇正解
最もありそうなのは「3」だと思います。違うのは「2」。
最初に私が考えたのが「1」でした。
いつの人口が今より2800人だけ人口が多い2万6200人だったかを調べてみると、2009年4月1日の人口が2万6200人だったので、近い。鳩山内閣の成立が同年9月。
2019年の統計が同年10月1日の住民基本台帳をもとにしているので、施政方針演説の4か月前の時点。そう考えると、ぴったりと言ってもいいくらいかも。
安倍さんのいつもの「悪夢の民主党政権」関連で、この時点とくらべたのかな、と、はじめは思いました。
でも、「3」の可能性のほうが、かなり高いと、わたしは思います。
〇根拠
1993年~2018年までの「転入-転出」人数を「しまね統計情報DB」から抽出して合計しました。
1995年10月1日~2017年10月1日までの「転入-転出」人数を合計すると「2791人」でした。ぴったりですね。
「2800人」減少したというのは、自然増減は入れない「転入」「転出」だけを原因にした、人口の減少数だったのですね。
表1 江津市「転入-転出」人口の推移
(「しまね統計情報DB」より。2018年「第18表」、2004年以前は各年の「市町村・男女別人口動態」から)
〇どういう表現が、よりよいか
質問1で、どうお考えでしたか。
「1」「2」と答えた人は、この文を素直に理解して、「2800人」が、20年ほどの期間での江津市の人口減少数だったと理解したのだと思います。なんとなく、だまされてしまいますよね。
「20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町です」という文は、「20年以上、転出超過が続き、そのことによる町の人口の減少は、その1割に当たる2800人にも上りました」のように、わかりやすく書いてほしいところです。
あるいは、演説での表現を強いものにしたいから、そう表現したのなら、首相官邸のHPの演説文に注をつけてほしいもの。
〇コメント
地方の人口問題は、自然減を抜きにできないことは、至極当然で、スルーはできません。もし、ここで、「1割減」でなく「2割以上減」と表現されていたら、より問題は深刻に見えてしまうのを、避けたのでしょうか?
ここまで「20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町です」を考えました。
つぎに「若者の起業を積極的に促した結果、ついに、一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました」を見ていきましょう。
〇2018年の「転入-転出」人口は、2017年から、どう変化したか
2018年、江津市の「転入-転出」人口は、表1から「28人」とわかります。17年は、これが「-61人」でした。ということは、「89人」ぶん、転出超過から転入超過に動いたことになります。
「しまね統計情報DB」には、転入と転出の理由を調査した統計が掲載されています。それを見ながら、この首相の言葉を確認していきましょう。
なお、「しまね統計情報DB」「推計人口」にある諸表間で数字が若干異なっている場合があります。
つぎの表2では、「転入-転出」人口は、27人(2018年)、-64人(2017年)で、「91人」ぶん、転入超過に動いたことになっています。これからは、この数字を使って見ていきましょう。
〇質問3
江津市で、2018年と17年に「転職・転業」の目的で転入した人、同市から転出した人の統計を見て、次の問いに答えてください。
1.「転職・転業」のために江津市に転入した人は、2017年、2018年、各何人で、何人増えましたか?
2.「転職・転業」のための江津市への転入と転出を合わせると、17年から18年にかけて、この理由での「転入-転出」の人数は、何人ぶんが、18年の「91人ぶん」の転入超過への変化に役立っていますか?
3.「転職・転業」のための江津市の県外からの転入・県外への転出については、17、18年はそれぞれ何人でしたか。その結果、何人ぶんが、18年の「91人ぶん」の転入超過への変化に役立っていますか?
4.2017年から18年に転入超過になった理由として、ふさわしい理由を、つぎのなかから2つあげてください。
イ.転職・転業 ロ.就学・卒業 ハ..結婚・離婚等 ニ.退職・家庭の事情
※政治学者・菅原琢氏の「国会議員白書」ブログから、表をお借りします。
表2 江津市転出入者(日本人)の移動理由
出典:菅原琢「国会議員白書」ブログより。原資料は「しまね統計情報DB」、2017、18年「第12表」。
注)「県外転入」には市町村長が職権により住民票に「記載」した者の数、「県外転出」には住民票から「消除」
した者の数が含まれていない。
〇正解
1.「転職・転業」のために江津市に転入した人は「2017年:38人」「2018年:58人」
で、20人増。たしかに、この年は、転入者がふえていますね。
2.でも、転出者も「2017年:30人」から「2018年:45人」に15人増。「1」の転入
者と差引で、2018年の「転入超過」への「91人」ぶんの変化に「5人」ぶん貢献。
ですが、これは「転入超過」になったおもな原因と言えるものなのでしょうか。
3.県外からの転入は「2017年:32人」から「2018年:34人」に「2人」ぶん増えて
いますが、県外への転出が「2017年:22人」から「2018年:32人」に「10人」ぶん
増えています。
そのため、「転職・転業」を理由とした県外との人口移動が、18年の「転入超過」
方向に貢献した人数は「-8人」となります。むしろ「マイナス」に動いた。
このことから、県外との「転職・転業」を理由とした人口移動のために、江津市は
「転入超過」になったとは言えないことが、わかります。
4.2017年から18年に転入超過になった理由として、ふさわしいのは「ロ.就学・卒業」
「ハ.結婚・離婚等」であることが、表からわかります。
それぞれ「+94人」「+51人」の変化要因になっています。
※付記
また「転勤」「就職」も、それぞれ2018年は17年比「-8人」「-16人」で、江津市への就業のための人口移動全般をみても、「転勤」「就職」「転職・転業」を合わせて「-6人」から「-25人」とより転出超過になっている。転入も「269人」が「261人」へと、わずかに減っている。
上で見てきたことから、「ロ.就学・卒業」「ハ.結婚・離婚等」が、2018年に江津市の人口が転入超過になった主な原因であることがわかりました。
安倍首相のいう「転職・転業」が転入超過の主な理由ではなく、県外との「転職・転業」が原因の人口移動は、転入超過数がへりました。
「若者の起業を積極的に促した結果、ついに、一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました」という因果関係はなく、「フェイク」といってよさそうです。
それでは、つづいて、2018年に江津市の人口が転入超過になった主な原因である「ロ.就学・卒業」「ハ.結婚・離婚等」のうち、数の大きい「就学・卒業」が、なぜ増加したのかを考えてみます。
このことについて、政治学者・菅原琢氏は、1月28日にわたしの推理と同じ結論に達しておられます。
私は、菅原氏とは別に、同じ推理に、のちに達することになりました、この経緯については、この報告の末尾にふれたいと思います。
〇質問4
江津市で、2018年に「就学・卒業」の目的での転入人口が「38人」から「111人」に大幅に増加したのはなぜか。もっとも考えられるのは、つぎのうち、どれですか。
1.市内に新しい学校ができたり、定員が増加したりしたため
2.市内の寮生や寄宿生がふえたため
3.その他
〇正解/解答
どうやら「1」ではないようです。「2」か「3」だと思います。
どちらなのか。「質問7」まで、答えを求めて、考えを進めていきたいと思います。
〇質問5
もし「市内の寮生や寄宿生が増えた」としたら、考えられる理由はなんですか。
1.石見智翠館高校へのスポーツ留学による寮生等が、転入人口となったため
2.三江線(JR西日本)がこの年の春に廃業し、沿線からの通学生が近くに寄宿した
り寮に入ったため
3.その他
〇正解/解答
わたしは、はじめ「2」が有力かと思いました。しかし、島根県に「足を踏み入れた」ことは、わたしにはないので、地域の事情はよくわかりません。
パソコンで検索すると、三江線は通学路線になっていたものの、災害で不通になることも少なからずあって、スクールバス通学がむしろ主流になるなかで、乗客を減らし続けて、廃業となったようです。
三江線の廃業によっての「寮生」「寄宿生」増加は、多少あるかもしれませんが、主な理由ではなさそうだと、いくつか調べてみて思いました。
そこで、「1」「3」の可能性を、このあとに考えていきたいと思います。
〇「就学・卒業」のために人口が増えるなら、高校生がもっとも考えられる
小中学校は地元で通うでしょうから、もっとも「就学・卒業」による人口増加に関係しそうなのは、高校生でしょう。
江津市にある高校は、江津高校、江津工業高校、石見智翠館高校、キリスト教愛真学園。ほかに、島根職業能力開発短期大学校があります。
石見智翠館高校には、スポーツコースがあり、野球や、ラグビー(男女)などで、全国でも活躍しています。たとえば、野球部は寮生活を基盤にしているようです。
2019年「夏の甲子園」に出場した野球部について、ある記事(朝日新聞島根版、同年8月6日付と思われる)によれば「部員数121人のうち、島根出身者は約10人」。約110人が県外からの寄宿生ということになる。スポーツコースは、スポーツ推薦50名、一般でスポーツコース30名といった、毎年の定員があるようだ。この約80名を中心に、寮生の多くが、これまで住民票を移していなかったところを、1学年、またはそれ以上の範囲で移すようにすれば、「就学・卒業」による転入人口は、それだけで数十人規模で増加することになる。そういうことは起こらなかっただろうか。
〇菅原琢氏が示した2つのこと (1)2018年に15-19歳(日本人男性)の社会増が激増
政治学者・菅原琢氏は、2つの図表を示して、論をすすめていっています。
http://blog.sugawarataku.net/article/187091325.html
まず「図 島根県江津市の年齢(5歳階級)別転入超過数(日本人男性)」を、菅原氏は示しています。
〈これを見ると、2018年に15-19歳の社会増が激増していることがわかります。それまで大きくマイナスに振れていたものが+40と極端な値を取っています。なお女性では2018年に同様の顕著な変動は見られません〉
同氏のブログを見ると、グラフで一目瞭然ですが、それをさらにしぼりこんで、高校生年代に焦点を合わせて、「15-17歳人口」がどう増えたかを見ていきましょう。
〇高校生世代の「転入超過」が2018年に大きくなったことを、年齢別人口に見る
表3 高校生の人口は、2005-19年にどう推移してきたか
(「15-17歳人口」と、前年の「14-16歳人口」とを比較して、その増減を見る)
2017年には「637人」であった「14-16歳人口」は、2018年に「713人」(15-17歳)
になりました。「+76人」です。
この表から明らかなように、2018年の「転入超過」に、この年の「15-17歳人口」の増加が寄与していると思われます。
それ以外の「2006」「2011」「2016」年にも、同様かそれ以上に大きく増加していますが、これについては、質問6で、あらためてその理由を考えます。
つぎに、それを男女別にみてみます。ここでは、問題の「2018年」の近辺の5年間だけを見ます。
表4 高校生の人口は、2015-19年に男女別にどう推移してきたか
(「15-17歳人口」と、前年の「14-16歳人口」とを比較して、その増減を見る)
※表3・表4の原資料:「しまね統計情報DB」より、各年の「市町村・年齢(各歳)・男女別人口」から
表4から、2018年に「転入超過」になった大きな理由は、「15-17歳」人口が増えたからであるとわかる。それも、女性の転入人口も増えていますが、それ以上に、とくに男性の転入人口が増えたからではないかと、考えていいでしょう。
そして、男子高校生が大きく増えているのだから、野球部などのスポーツ留学人口が、なにか関係があるのではないか。こうした想定に、さらにひとつの傍証が与えられたことになります。
〇菅原琢氏が示した2つのこと (2)2018年の江津市10代男性転入者の移動前住所
菅原氏は、また「表2 江津市10代男性転入者の移動前住所」を示しています。
表5 江津市10歳代男性転入者の移動前住所
出典:菅原琢「国会議員白書」ブログより。
2018年に、大阪・兵庫からの男性の転入者が増えていることが、人口の社会増の原因だったのですね。この2県からだけで、34人もふえています。
これについては、翌2019年夏の甲子園に出場した、石見智翠館高校のベンチ入り部員の出身県の分布との類似が見られそうです(新聞記事より)。
ベンチ入り18人は「大阪府12名」「広島県2名」「兵庫県2名」「神奈川県1名」「島根県1名」だった。
なお、この「総数86名」は、規模感としてスポーツコース80名に近いことにも気づく。
こうしたことから、石見智翠館のスポーツコースの高校生が、何らかの理由で、これまで住民登録をしてこなかったのが、するようになったから、「就学・卒業」による転入人口増となったと考えられそうです。
では、それはなぜなのか。統計から見えることはないかと考えました。
ひきつづき、15-17歳人口の動向をみていくことにしましょう。
〇江津市の人口動態統計を読むときに注意したいこと
──5年毎にみられる「転入増」と「転出増」
考えを進めていきますが、初めに、江津市の人口動態統計を読むときに考慮しておきたいことが、ひとつあると思ったので、そのことを述べます。
〇質問6
表3を見ると、2006、11、16年と、5年毎に「15-17歳人口」の増え方が多くなっています。その理由として、どんなことが考えられるでしょうか。
(表3のうち、増減の表を再掲します)。
1.5年ごとに高校野球の記念大会があるから
2.5年ごとに国勢調査があるから
3.その他
表3 高校生の人口は、2005-19年にどう推移してきたか
(「15-17歳人口」と、前年の「14-16歳人口」とを比較して、その増減を見る)
〇正解/解答
これは、これらの年が、国勢調査の翌年だからだとしか考えられないと、思います。
国勢調査によって、これらの年に、江津市への高校生の転入が把握されたため、この年齢の人口が例年になく増加したという統計になったのでしょう。
〇国勢調査で「転出増」になる年齢層もある
いま「15-17歳人口」が、国勢調査の翌年に、他の年よりも目立って多く増加することを見ました。
そのほかに、国勢調査の翌年に、他の年よりも大きな、社会増減を見せる年齢層が、2つあります。
「15-17歳人口」は、高校生世代ということで、3歳の刻みで見ましたが、この2つは、それぞれ6歳と12歳の刻みでみることにします。
2016年の「18歳」だけ特殊事情がありますが、それは後述します。
表6 江津市の「18-23歳人口」と「24-35歳人口」の増減を見る
※表5の原資料:「しまね統計情報DB」より、各年の「市町村・年齢(各歳)・男女別人口」から
上の表は、各年の「18-23歳人口」と「24-35歳人口」を示したものです。
下の表は、それらを、それぞれ前年の「17-22歳人口」と「23-34歳人口」とくらべて増減を示したものです。
(なお、ここでは、前年の「17-22歳人口」と「23-34歳人口」は、記しません)。
これらから、国勢調査の翌年には、つぎのような特殊事情が生じてると思われます。
1.高校生世代(15-17歳)の転入が把握され、他の年よりも転入増幅がふえる(表3)
2.高等教育卒業者の市外への転出が、18-23歳人口で把握され、他の年より転出増
幅がふえる(表5)
3.市外に転出した若者のなかから、市内に戻る者があり、24-35歳人口でのそれが
把握されるため、他の年よりも転入増幅がふえる(表5)
ここで注目したいのが、18-23歳人口が、同学年比較で2006年555人減、11年503人減だったものが、16年は299人減にとどまっていることです。
ただし、これを「19-23歳人口」でみると、つぎのようになります。
たしかに減少数の減り幅が小さくなりましたが、その理由の一部は、2016年に18歳の転入人口が増加したことにあるようです。
表6-補足(1) 江津市の「19-23歳人口」の増減(2006、11、16年)
つぎに、これらの3つの年齢層を合わせた、2006、11、16年の「転入-転出人口」の増減をみてみます。
表6-補足(2) 江津市の「15-35歳人口」の増減
2016年、2018年、2019年の、この年齢層の人口の社会増が、ありそうに見えます。
そのうち、2016年のこの年齢層の人口動態を、よりとらえやすくするために、この年齢区分を、補足(1)のように「15-18歳」「19-23歳」に変えてみます。
表6-補足(3) 江津市の「15-18歳人口」「19-23歳人口」の増減(2006、11、16年)
これをみると、2016年の「15-35歳」転入出人口増加の最大の原因は、15-18歳人口の増加幅が大きいことにあることが、わかりますね。
では、つづいて、この「15-18歳」転入出人口の動向を、各年齢別にみてみましょう。
表7 江津市の「15-18歳」人口の増減を、各年齢別にみる
※表7の原資料:「しまね統計情報DB」「市町村・年齢(各歳)・男女別人口」。14歳人口は省略した
〇なぜ、2016年に、17歳・18歳人口(転入者)がふえたのか
これを見るとわかるように、2016年には、16歳人口の増加幅も大きいですが、17歳、18歳人口の増加が目立ちます、なぜなのでしょうか。
〇質問7
2016年に、17歳・18歳人口(転入者)が増加した理由は何かを、推理してください。
1.2012-15年に、転入の住民登録をしなかった人が、これまでになく多かったから
2.石見智翠館へのスポーツ留学者が、この年には特に多かったから
3.アベノミクスの成果で、高校生世代の移住者がふえたから
4.18歳選挙権が、2016年からはじまったから
〇正解/解答
最大の要因は「4」だと、私は思います。
「18歳選挙権を実現する改正公職選挙法は、2015年6月19日に公布され、16年6月19日に施行され、同年6月22日から適用されることとなった」。このことと、この年齢層の2016年の人口増とは、たしかに関係がありそうですね。参議院選挙は7月10日でした。
〇2018年に「就学・卒業」によって人口(転入者)がふえたのは、なぜか
2017年には、転入・転出人口の動向は、例年と変わりのないものだったことが、表からわかります。
その翌年になると、大きく変わりだします。
あえて、そのきっかけになったかもしれないとわたしが想像する新聞記事を紹介します。これは、菅原琢氏の「国会議員白書」でも取り上げられているのをあらためて読んでみて、そう思うようになりました。
*江津市:社会増モデルに 創業・移住促進、内閣府が評価 11日講演/島根-毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170906/ddl/k32/010/416000c
これが、2017年9月6日の記事で、つぎの参考資料と関連がありそうです(菅原氏の論考で言及されていたもの)。
*資料 移住・定住施策の好事例集(第1弾) 2017年12月 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/wakuwaku_kaigi/h30-02-14-sankou.pdf
これらでは、2017年に2012年比で江津市の人口が社会増となり、社会増のモデルたるべき好事例となった、とされています。
この時期に社会増のモデルとなったからには、それを実現したいと考えられた。そう、私は想像します。
2016年、18歳選挙権のスタートを契機に、17-18歳人口が、転入者として、同じ国勢調査の翌年だった2011年比で168人も多く、人口の社会増に貢献することになりました。
それと同じことを、15歳・16歳人口についても行なえば、転入者の人口が把握され、社会増の数字が出やすくなります。
じっさいに、表7が示すように、2018年には15-16歳で77人、19年には104人が、この年齢の社会増の要因となっています。理由は、ここにあったのではないかと思います。
では、それを、江津市の就学・卒業を理由とする転出入者数の推移の統計に、見てみたいと思います。
表8 江津市の就学・卒業を理由とする転出入者数の推移
※原資料:「しまね統計情報DB」各年の「第12表 市町村・移動理由別移動者数」より編集
注)「県外転入」には市町村長が職権により住民票に「記載」した者の数、「県外転出」には住民票から「消除」
した者の数が含まれていない。
これを見ると、あれっと思います。2016年の就学・卒業は「-31」ではありませんか。
前年「-58」より社会減は少ないですが、いまだに社会減なので。大きな動向は変わっていません。転入がすこしもふえていない。これは、もしかしたら、注の〈「県外転入」には市町村長が職権により住民票に「記載」した者の数、「県外転出」には住民票から「消除」した者の数が含まれていない〉に関係し、職権記載が行われたのか。
いっぽう、2018年は、転入者数が顕著にふえているので、15-16歳の高校生への住民登録の推奨が行われたのでしょうか。
〇質問8
結局、江津市の2018年の人口は、ほんとうに社会増(転入超過)になっているのでしょうか。
1.なっている
2.なっていない
3.わからない
正解/解答 これは、どう思いますか。わたしの考察は、つぎに述べます。
〇考察 江津市の2018年は、ほんとうに社会増になっているのか
人口動態統計は、5年ごとの国勢調査によって、住民基本台帳をベースとして国勢調査の統計を修正した国勢調査間期の統計の不正確さを、正されることを繰り返しているのではないかと思います。
質問6からみてきたように、国勢調査の統計で、人口の増減を修正される年齢層は3つあります。①「15-17歳」(または「15-18歳」)、②「18-23歳」(または「19-23歳」)、③「24-35歳」です。
国勢調査によって、①は「増加」、②は「減少」、③は「増加」の方向に正されるのが、これまででした。
ところが、18歳選挙権が施行されて、17-18歳人口は、通常の年にも住民として把握されるようになり、しかも、2018年からは、15-16歳人口まで、江津市では住民登録の推奨によって把握されるようになったような形跡が、人口統計からは見られました。
もしそうだとすると、国勢調査によって、①「15-17歳」(または「15-18歳」)の人口が、増加の方向に大きく正されることは、なくなりそうに思います。また、②「18-23歳」(または「19-23歳」)の人口が、減少の方向に正される程度が、より大幅になる可能性があるでしょう。
表6-補足(2)を見ると、②③の年代の平年の人口動態は、これまでと大きく変わっていないと思われます。そのため、国勢調査では、①の増加が小さくなり、②の減少がふえて、人口の社会増減は、マイナスの方向に調整されることが予想されるのではないかと思います。
このマイナスの方向の調整を、それ以前の平年である4年間に及ぼせば、はたして2018年の「28人」の転入超過は、結果としてプラス(社会増)のままの数値に補整されるだろうか。
わたしには、おおいに疑問に思えてなりません。
国勢調査の翌年である2021年には、どういう補整が行われることになるでしょうか。
(2020.2.23記す)
付記1)
私は、人口統計のプロなどでは皆目なくて、ただのひとりの市井の者です。さぐりさぐり考えて、こんなふうに思いました。プロなら断言できるところや、素人の誤りもあるかもしれません。そうしたことがありましたら、ご教示いただきたくも思いますし、至らぬこと、不足を申し訳なくも思います。
付記2)
1月26日から27日にかけて、わたしは、安倍首相の施政方針演説について、違和感を感じて、短文を書いた。その後、江津市のことを折々ネットで調べてみると、ちょっと前に思ったことと違うかもしれないと思い、2月9日に、あらためてそれを文字にしてみた。そうして、それを、とあるところに投稿する寸前に、政治学者・菅原琢氏の「国会議員白書」に、江津市の人口動態についての安倍演説の批判論考が掲載されているのを知った。
わたしが考え直した方向と同じことが、はるかに明確かつわかりやすく、そこには書かれていた。プロは違うものである。菅原氏は、すでに1月26日深夜~28日、ここまで明らかにしていたんだ、と思った。書いたものを投稿してから、菅原氏の論考を読みなおし、そこで気付いたことも、さらに投稿した(ただし、一部は、最終承認投稿後の考察だあるが)。これは、それらの私の投稿を、まとめなおしたものである。
菅原琢氏の論考の参照先を再掲します。
*安倍首相演説:島根県江津市が若者の起業を積極的に促した結果、人口の社会増を実現させたというのは本当か(2020年1月27日)
http://blog.sugawarataku.net/article/187087899.html
*安倍首相演説:島根県江津市の転入が増えたのは若者の起業促進策が成功したからでなく〇〇〇〇のため(2020年1月28日)
http://blog.sugawarataku.net/article/187091325.html
私のこの文章よりも、この話の概要を深く知るには、菅原氏の論考を読むほうがいいかもしれません。
私のこの文章は、菅原氏の論考とは別個に至った私の考えと、菅原氏の論考に触発され、試みて至った考えを述べたものです。なお、この小文には、菅原氏の論考から2つの図をひかせていただきました。
表2は、私も同様の図を作成して考えましたが、表5は、こうした調査があることも知りませんでした。
ただし、質問5の説明以降には、小生独自の考察が含まれてるのではないかと思います。そこに、この小文(長いけど)を書く意味がいくぶんなりともあるかもしれません。
(2020.2.24未明に記す。最後の2行のみ、2023.1.22加筆)