(要旨)安倍首相が施政方針演説でふれた 「江津市の人口動態」 は正しいか ◇統計をみて「8つの質問」で検証していく

(要旨)安倍首相が施政方針演説でふれた 江津市の人口動態」 は正しいか

◇統計をみて「8つの質問」で検証していく

 

1月23日にブログを書きました。

「安倍首相が施政方針演説でふれた 江津市の人口動態』は正しいか

◇統計をみて『8つの質問』で検証していく

 

が、それです。2020年1月下旬から考えはじめ、2月上旬にかけて考えが順次まとまり文章化をしたものを、同年2月24日未明にまとめなおした未公表の文章を、3年後のいま、そのまま掲載したものです。

 岸田首相の施政方針演説も先日あり、ちょうど3年たち、安倍元首相も帰らぬひととなりました。

 これは、安倍元首相の施政方針演説を題材に、統計をもちいた発言が、実態とかけはなれたものである、有名な事例として、紹介しておく価値があると考えたのです。

 いまが、これを公開する最後の機会のような気がしました。

 以下は、要旨です。くわしい数字や、計算結果は、ブログの「本論」のほうを、お読みください。

nanijiro-i.hatenablog.com

 

1.安倍晋三元首相の発言

 安倍元首相が、3年前の2020年1月20日の施政方針演説で、こんな発言をしました。

 

東京から鉄道で7時間。島根県江津市は「東京から一番遠いまち」とも呼ばれています。20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町です。
 しかし若者の起業を積極的に促した結果、ついに一昨年転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました

 

 この演説で安倍元首相は江津市にⅠタンしてパクチー栽培をしていたHさんについてふれて地域を活性化する政府施策を紹介しました。そのHさんが前年末市外に転居していたことはニュスになりました覚えておられる方も少くないでしょう

 https://www.tokyo-np.co.jp/article/14666 (東京新聞2022.1.22)

 

 この施政方針演説をみて、わたしは別の違和感を感じました。

 

2.人口の減少幅は1割だったのか

「20年以上も転出超過がつづいた、東京からもっとも遠い町の人口が、その間に1割減というけれど、そのくらいの減少で、すんでいるんだろうか?」

 この疑問が出発点でした。しらべてみたら、こうでした。

 

東京から鉄道で7時間。島根県江津市は「東京から一番遠いまち」とも呼ばれています。20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町です

 

 まず、最初に青字で引いた、演説の前半から、考えていきましょう。

 

〇問題.江津市の人口は、ほんとうに、20年以上で1割減だったんでしょうか?

◇質問1.江津市の人口は、1995年の国勢調査から、安倍元首相の演説までに、どのく

 らい減りましたか?

 

○考え方

20年以上、転出超過が続き、人口の1割に当たる2800人が減少した町です」と書いてあると、人口は2800人へったように思えませんか。それは本当でしょうか。

○調べてみると

 1994年、95年に、それぞれ「5人」「46人」の人口の「社会増」があった。

 1996年から2017年まで、人口の社会減がつづいたのは22年間。20年以上の転出超過。

 1995年の国勢調査人口は、3万0740人。

 2019年12月末の推計人口は、2万3442人となっていました。

 約7300人(7298人、23.74%)減少していることになりますね。

 

 いったいどうして、2800人減少、だったというんでしょう? 考えてみました。

 

3.2800人減というのは、何をさす数字か

◇質問2.「20年以上転出超過が続き人口の1割に当たる2800人が減少した町です」

 と、安倍元首相はいいました。この2800人というのは、どんな人数のことを言ってい 

 るんでしょうか?

 

○調べてみると

 人口の社会減がつづいたのは1996年からなので、同年以降の人口の各年の社会減の人数を合計したら、2791人でした。ぴったりですね。

 「20年以上、転出超過が続き、人口は、この社会減だけで、当時の人口の1割に当たる2800人が、減少した町です」

 というように聞き手の誤解を招かぬように言うべきだたんじゃないでしょうか。

 

県外からの起業のための移住がふえて人口が社会増になたというのは本当か?

 ここまでの内容は2020年1月26日日曜日にはまとめはじめていました翌朝には上に書いたことを統計にあたって気づくとともに、安倍元首相が演説であげた、人口減少の理由は、江津市の人口統計(島根県によってまとめられたもの)をみると、あてはまらないことに気づきます。

 

◇質問3.島根県の統計情報から「2018年の江津市の人口が社会増になった理由は、県

 外から転入してきた創業者が増加したから」という安倍元首相が語った理由が正しい

 かを考えてみてください。

 

○調べてみると

 2018年は、前年とくらべ「91人」ぶん、社会増減がプラスにむかった結果、前年の社会減-64人が、社会増27人になりました。

 島根県は、各市町村の人口増減を、その理由別にまとめて公表しています。それをみると、転職・転業による転入は20人増加、転出も15人増加で、これを理由とした、社会増への貢献は「5人」ぶんにすぎないことがわかりました。しかも、県外からのこの理由による人口動向は、逆に「8人」ぶん、社会増への貢献人数をへらしていたのです。転勤と就職を理由とした人口動向をみても逆に社会減の数が合計38人ふえています。

 

しかし、若者の起業を積極的に促した結果、ついに、一昨年、転入が転出を上回り、人口の社会増が実現しました。

 という安倍元首相の施政方針演説の内容は、統計からみれば、明らかに否定されるべきものだったというわけです。

 それを示すのが表2でした。

 これは、政治学者の菅原琢さんが、ブログ「国会議員白書」に掲載している表を借りました。

 このへんの説明内容を、菅原さんがブログにアップしたのは、1月28日でした。

 わたしが上記の内容と、つぎに書く内容を自分でまとめたのは、1月27日午前で菅原さんとは別個に、同じ推理に達していたわけです。

 菅原さんのこのブログの存在にわたしが気づいたのは、2月9日の午後になってからでした。それは、さすがの、よく伝わり、わかりやすく理解できる、むだのなく、ひろがりのある、深い論考で、勉強になります。

 わたしは、まとめた内容には表形式での入力はしていませんでしたが、同じような集計をしていました。

 自分で表をつくる場合も、ほぼ同じものになるし、図表がとてもわかりやすかったので、さきの「本論」では、この表を引用いたしました。

 

5.社会増にもっとも貢献したのは、「就学等」のための転入人口が、76人も増加した

 ことにあった

 この表2をみると、2018年に人口が社会増になった理由は、「就学・卒業」と「結婚・離婚等」にあることがわかります。

「就学・卒業」は、2017年は-52人、2018年は+42人で、94人ぶんも、社会増に貢献しました。

「結婚・離婚」は、同じく-25人が、+26人になり、51人ぶん、社会増の方向に動きました。

「就学・卒業」では、転入が、35人から111人人にふえています。

 その理由は何かが、つぎの問題になってきます。

 この理由として1月27日午前の時点では江津市広島県三次市を結ぶJR三江線2018年3月末に廃止されたことと関係があるのではないかと、はじめは予想しました。

 菅原さんは、1月28日のブログで、その正しいと思われる理由にいたりついておられます。わたしは、2月9日の午後には、三江線廃業ではなく、別に理由があることの「発見・推理」にいたりついて、それを文章化しています。そして、文章を書き終えたあと、菅原琢さんのブログを、ウェブで見つけます。

 

6.なぜ、2018年に「就学等」のための転入人口がふえたのか(1)

◇質問4および5 2018年に「就学等」のための転入人口が大幅にふえた理由は、なん

 でしょうか?

 

○調べて考えてみると

 石見智翠館高校へのスポーツ留学のために他県から転入してきた、同校の高校生で、寮生活をしている生徒たちが、これまでは転入届を出していなかったのが、転入届を出して、住民基本台帳人口として、行政にとらえられるようになったから、ではないか、と、わたしは考えました。

 三江線は、通学路線にはなっていたものの、災害で不通になることも少なくなく、スクールバス通学がむしろ主流になっていたことから、寄宿生・寮生の増加の原因の1つかもしれないけれど、主要な理由ではなさそうだと、思いました。

 菅原琢さんは、

(1)15-19歳人口での転入超過、とくに男性の転入超過が多いこと、

(2)同市への10代男性転入者の出身県

という2つのことから、石見智翠館高校のスポーツコースの高校生の、これまでは行なわれないことが多かった住民登録が、行なわれるようになったからと考えられると、述べています。

 わたしも、2月上旬になって、同じ推論に達しました。

 

7.なぜ、2018年に「就学等」のための転入人口がふえたのか(2)

 この先の拙考は、菅原先生のご論稿が5歳ごとの年齢でみた統計を、各年齢別にみたものです。

 まず、5年おきに、人口の増減が特異な年がくりかえされていることを、人口推計の統計表から、示しています。その理由はなんだろうと問うたのが「質問6」です。

 国勢調査が5年ごとに行なわれて、その結果が、翌年の人口統計に反映されます。なので、5で割って1余る「2016」「2011」「2006」年などには、他の年とは異なる、とくべつの人口の動き方をしているかのような、統計結果になるわけです。

「2016」年にも同じ傾向がみられます。ただ、この年には、16歳人口61人、17歳人口106人、18歳人口63人と、この3学年の人口が、おおきく増えているのです。

「2006」「2011」年にも、16~17歳人口が、他の年にない増加をしめしていますが、15~18歳人口でみて、2016年は234人増、2011年は66人増、2006年は95人増でした。

 2016年には、とくに増え方が大きかった。

 

◇質問7 2016年に、高校生世代、とくに17-18歳人口の増加がみられますが、理由は

 なんでしょうか。

 

○調べて考えてみると

 これは2016年7月の参議院選挙を前にした同年6月下旬に18歳選挙権がはじまたからでしそのためこの年齢の人口がとらえられるようになたのでした

 この経験が2018年に、高校生世代の人口が増加する理由と、つながっていないか。

 わたしは、そう考えました。

 では18歳選挙権のはじまりは2017年以降どう社会増減に影響したんでしうか?

 

◇質問7-2 18歳選挙権の開始は、2017年以降、どう社会増減に影響したでしょう?

 これは「本論」にない問いですが、本論では、このことも、考察し説明しています。

 

○統計表をみて考えますと

 2018年には、15ー16歳で、他の年より目立って多い「77人」ぶん、住民基本台帳人口がふえています。このことがあったから、人口は社会増になったのでした。

 そして、2019年にも、「104人」ぶん、15-16歳人口がふえます。安倍元首相の演説時点で、このことは「推計人口年報」では未公表でしたが、月報が既公表だったため、確定していました。

 2017年の秋に、江津市は、内閣府によって「社会増のモデル」とされたことが、新聞記事や内閣府の資料からわかるということが、菅原先生のブログにのっています。

 2017年の11月1日時点の人口月報からが、2018年の人口統計の範囲です。新聞記事はその直前のものでした。そして同じ年度に2016年の高校生世代の人口増が17-18歳を中心に、16歳にも及ぶものだったところを、さらに年齢をさげて、15ー16歳について、住民登録を推奨するようなことが行なわれたと考えられ、人口は社会増を達成するという「快挙」がなしとげられたんじゃないかと思いました。そのこと自体は、正しい人口把握のためには、必要なことの1つなのでしょうが。

 

◇質問8 けっきょく、2018年の江津市の社会増減は、プラスだったんでしょうか?

 

○統計をもとに考えました

 本論では、国勢調査の翌年に、人口の動きがより正確につかまえられて、大きく人口が動く年代が、これまでの年には、3つあったことを示しました。

 15-17歳人口(または15-18歳):増加

 18-23歳人口(または19-23歳):減少

 24-35歳人口:減少

となっていました。

 これは、人口の社会増減が、十分に住民基本台帳によってとらえられていないということなのでしょう。それが、高校生世代についてはとらえられるようになると、どうなるでしょうか。

 国勢調査の翌年のこれらの調整人数について

 15-17(18)歳人口:増加幅の減少

 18(19)-23歳人口:減少幅の増加

 となりそうだと思います。

 2021年に反映される国勢調査による住民基本台帳人口の修正をへてどうなるかはその時点であらためて考察が必要です。はたしてどういう実態が現れるでしょうか?

 本論は、こうした問いかけで終わっています。

 

あとがき

 結果は、予想どおりだったと思います。

 でも、意外なところもありました。

 コロナの影響もあると思います。

 2022年までの統計をみて、どうなったかの報告と拙い考察は、遠からず稿をあらためて書いてみたいと思っています。

 以上が要旨ですが、菅原琢先生のご論稿と、この拙論との関係などの経緯も、この「要旨」のなかにもりこみました。

 なお、今日は、菅原先生の論稿から、3年目にあたります。

  • 参照先:

 安倍首相演説:島根県江津市が若者の起業を積極的に促した結果、人口の社会増を実現させたというのは本当か(2020年1月27日)

 http://blog.sugawarataku.net/article/187087899.html

 安倍首相演説:島根県江津市の転入が増えたのは若者の起業促進策が成功したからでなく〇〇〇〇のため(2020年1月28日)

 http://blog.sugawarataku.net/article/187091325.html

  これで、筆を擱きます。(2023年1月28日しるす。31日未明、誤記修正)

 

付記:「本論」と「要旨」のもとになったのは、こちらの宮武嶺氏のブログ欄への私の

 コメントです。

 行きつ戻りつするような、投稿になっています。(コメント欄なので、制約上、読みにくいでしょうが)。

 安倍首相、史上最低の施政方針演説。起業支援の成功例として持ち上げたパクチー農家はすでに消え、「桜を見る会」問題もIR汚職はなかったことに。河井克行・案里夫婦は存在しなかったことに。

 https://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/c6c4a5e720a156245818c84787464795 (2020年1月24日)